NIT01株の分離&酵素同定論文が発表された裏話

Dehalococcoides mccartyi NIT01, a novel isolate, dechlorinates high concentrations of chloroethenes by expressing at least six different reductive dehalogenases

Masaki Asai, NaokoYoshida, Toshiya Kusakabe, Mohamed Ismaeil, Takumi Nishiuchi, Arata Katayama.

Environmental Research, 2021, 112150

https://doi.org/10.1016/j.envres.2021.112150

最大4mMの塩素化エチレンを無毒なエチレンまで脱ハロゲン化する微生物を分離し、この微生物が塩素化エチレンを脱塩素化している間、少なくとも6種類の脱塩素化酵素を発現していることを発表した論文です.難培養性といわれるDehalococcoides属細菌ですが、もう世界的には10株以上分離されてしまって、なかなか新規性を担保できず、論文を出せずにおりました.補佐員の鈴木さんのサポートで日下部君が濃度耐性や塩濃度もろもろ基礎的なデータをとってくれ、補佐員の秋田さんのサポートで現M1の浅井くんとが1.5年かけて酵素を抽出し同定するところを行いました. 緊張で手を震わせながら抽出タンパクを精製していたころから考えると随分逞しくなりました. これによって、これまで着目されていなかった脱塩素化酵素が塩素化エチレンの脱塩素化中に発現していることを新たな知見として示せた論文を発表することができました. 孟さんにもゲノム登録のところでサポートしてもらい、まさにチームでつかみとった論文発表でした.みなさんに感謝しています.

この微生物は民間企業による地下水浄化事業にも適用されており環境中に補填されていくことから、その基礎代謝を地道に明らかにしていくことは重要です. 土木の発表会では、「それ調べて何の役に立つの?」というようなコメントに悔しい思いもしましたが、研究へのモチベーションを失うことなく頑張り続けてくれました. 論文執筆の段階では、はじめは「考察って何かいたらいいか分からないです」というところから始めて、なんとか書いてもけちょんけちょんに言われ全く残らない・・・といったサイクルを何回か繰り返すうち、最後は自分の考えを言葉にできた文章もいくつかでてきました.自分でも成長を実感し、少しは自信がついたのではないかと思います. 春休みを論文執筆に費やしブラック?に染め上げた犠牲の果て得たものが、少しの自信ってのは高すぎる代償かな? 残る1年と少し、浅井君の更なるステージアップを期待しています.

電流生産微生物の新種提唱論文がMicroorganismsに発表された裏話

Isolation and Polyphasic Characterization of Desulfuromonas versatilis sp. Nov., an Electrogenic Bacteria Capable of Versatile Metabolism Isolated from a Graphene Oxide-Reducing Enrichment Culture 

Microorganisms 20219(9), 1953; https://doi.org/10.3390/microorganisms9091953

Li Xie,Naoko Yoshida,Shun’ichi Ishii and Lingyu Meng

豊橋の海岸沿いの砂浜から分離した電流生産微生物を新種として提唱した論文です.Desulfuromonas属の新種として、この属の既報の微生物には見られなかった硝酸還元能があったことから、‘Desulfuromonas versatilis’ と提唱しました(とはいえ、オフィシャルに認められるには、ここから2国の培養寄託機関に寄託しIJSEMに公式な学名として認めてもらうよう申請する必要があります).ゲノム配列を読んで驚いたことは、機能遺伝子の新規なこと!GeobacterやShewanella属はよく研究されていますが、Desulfuromonas属の電流生産にかかわるタンパクはほとんど手が付けられていないのに驚きました.環境中でたくさん電流生産微生物として検出されているのに、意外・・・基礎研究と応用研究の両立は難しいですが、GeobacterやShewanella属の先人の偉業を道しるべに、コツコツ基礎研究も続けたいものです.

この論文の執筆中に、第一著者の謝さん・孟さんご夫妻に第一子が誕生しました. 謝さんとゲノムに基づいて代謝経路について固めていく作業は楽しかったです.研究職に限ったことではないですが、働き盛りがライフイベント乗り越えながらキャリアアップするのは大変ですが、将来のアカデミアを支える貴重な時期をみんなで応援したいものです. 

DehaloCon IIIに孟特任助教とM1冨田君が発表します

DehaloCon III , September 27 – 30, 2021 

Meng L, Yoshida N  “Exploring the microorganisms for achieving the bioelectrochemical dechlorination of Dehalococcoides via extracellular electron transfer”, Oral presentation

Tomita R, Meng L, Yoshida N “Effect of e- donors on the Chloroethene Dechlorination and Pathogenic Risk in Groundwater Augmented with Dehalococcoides”, Poster presentation

4月~9月にかけて発表された論文の裏話-その③

Comparative evaluation of fibrous artificial carbons and bamboo charcoal in terms of recovery of current from sewage wastewater

Wataru Nagahashi, Naoko Yoshida

The Journal of General and Applied Microbiology , In press.

春に学部で卒業した長橋君の卒論内容で、MFCのアノードをいろいろ比較検討評価したものです. 今の4年生のアノードの選定に繋がっています. スタートが遅くなり秋頃から頑張りましたが、卒論発表後に急いで論文にまとめるときは、孤独にたえ辛抱強く投稿準備につきあってくれました. 長橋君が卒論を投稿論文の形にできたことで、今年から学部生も院生も論文投稿するよう方針を固めることができました。卒論にもかなりオリジナリティーある考察が展開されていたり、考察するということに挑んでくれたこと自体が新鮮で、研究好きなんだろうなと感じました. 率直に意見してくれるので、いろいろ勉強になり楽しかったです. もっと早くから興味が引き出せるようなテーマを設定できてたら、もっと一緒に研究できていたかな?と後悔もありますが、どこにいかれても活躍されることと信じています. 

4月~9月にかけて発表された論文の裏話-その➁

Michaelis–Menten equation considering flow velocity reveals how microbial fuel cell fluid design affects electricity recovery from sewage wastewater

KenFujii, NaokoYoshida, KoheiMiyazaki

Bioelectrochemistry 140, 107821

春に大学院を修了した藤井君が修論発表会の前に投稿し、修論発表後にMajor revisionでかえってきて修了式後も追実験をして3月末まで対応し、社会人になってから受理された思いで深い論文です. 4年で卒業した宮崎君がMFCの電流に流速がかなり影響することを示してくれ、引き継いだ藤井君が+3年かけて論文になりました. 私が物理に疎くソフトに弱いものだから藤井君は自力でかなり頑張る必要があり苦労したと思います. 投稿後、結果が送られてくるのが怖くてメールが見れません・・・といっていた白い顔が忘れられません. 投稿準備しているときに追実験を要求される可能性あるから実験しとかなあかんなーといいながらほかっていたら、案の定修了式後に実験をやる羽目になり、嫌な予感は必ず当たるから準備しとくに限る!と改めて思わされました. 社会に出た後の肥しになっているといいな. ゆらゆらと凹みながらも根を張ってしぶとく頑張れるこを知っているので、心配してませんが。国際会議の口頭発表に挑んだり、中国で揚げた芋虫食べたたり、ここにかけない諸々だったり、いろいろ楽しかったですね. これからも無謀にいろいろと挑んでいってくれることと思います.