微生物燃料電池のセパレータ膜評価論文発表

Itoshiro, Ryoya, Naoko Yoshida, Toshiyuki Yagi, Yuriko Kakihana, and Mitsuru Higa. 2022. “Effect of Ion Selectivity on Current Production in Sewage Microbial Fuel Cell Separators” Membranes 12, no. 2: 183. https://doi.org/10.3390/membranes12020183

B4の石徹白君が、同級生の田中君や清水さん、スタッフの八木さんたちとともに微生物燃料電池(MFC)リアクターを運転し、膜のイオン選択性がMFCの電流生産に与える影響を評価しました.膜のイオン移動抵抗測定は、山口大学の比嘉研究室に行って頂きました. じゃんけんで負けて入った研究室でありながら、興味をもってよくやってくれました. 携帯でメモをとるイマドキの若者との共同研究は私にとって初めての体験で戸惑いもありましたが、イマドキだから?誰よりもメールのレスポンスが早く、期日を示せば確実に宿題に応えてくる対応力がスピーディーな成果発表につながりました.「論文投稿に取り組んでみる?」と聞いたときに「やってみたいです」と即答された時には、状況をよく理解してないな・・・と思いましたが、壁の高さを測る前に登る若者らしさは、今後も石徹白君に成長をもたらしてくれると思います. 特集号への寄稿のための〆切に間に合うよう急いたり、査読への返答&追実験にも、バイト&長距離通学の中、粘り強く対応しました. お疲れさまでした・・・まだ卒論発表ありますね・・・ 

電気化学的な脱塩素化論文発表にあたり

Lingyu Meng, Naoko Yoshida, Zhiling Li. Soil microorganisms facilitated the electrode-driven trichloroethene dechlorination to ethene by Dehalococcoides species in a bioelectrochemical system.

Env.R.,209, June 2022, 112801. https://doi.org/10.1016/j.envres.2022.112801

今回発表された論文は、本研究室で分離したDehalococcoides NIT01株(浅井ら、Env. R., 2021) を用いた電気化学的な脱塩素化反応において、NIT01と電極間の電子伝達を土壌中に棲息する微生物(Desulfosporosinus属細菌)が担う可能性を示した論文です。さらに、カソードバイオフィルム及び培養液中に存在する酸還元物質がNIT01と電極間の電子伝達に寄与する可能性を提示した。本研究は従来のエネルギー源である水素供給を介さず、電極をエネルギー源とした電気化学セルにおいてDehalococcoidesに共役する微生物の同定がサイエンス面での新規性が示されつつ、Dehalococcoidesを用いた電気化学的な脱塩素化の応用に関する知見の拡充にも繋がると考えます。今後、電子伝達メディエーターの同定を含め電子伝達機構を突き止めていきたいと考えています。

この論文は私が学位取得後に研究分野を切り替えて初の論文であり、吉田先生が長年にわたって脱ハロの研究がされた経験に基づいた発想で実験デザインをした。論文の基礎データを取るために必要な実験スキルを研究室の技術補佐員の鈴木さんと秋田さんが丁寧に教えていただき、そして蘇さんが一部分のサンプルの分析を協力していただいたからこそ論文発表ができた。論文投稿からアクセプトされるまでに7カ月間がかかりまして吉田先生や国際共同研究先のハルビン工科大学の李先生からたくさんのご助言を頂いたお陰で、責任著者の役割を果たせ最初から最後までにやり遂げることができ、大変勉強になりました。ここで吉田先生をはじめご協力を頂いた皆様に御礼を申し上げます。最後にこれまでに蓄積されたノウハウを研究室に還元できたらと思いつつ、研究を頑張りたいと思います。引き続きよろしくお願い致します。

孟令宇 2022年2月2日

MFCスケールアップ論文発表の裏話

Mari Sugioka, NaokoYoshida, TaikiYamane, Yuriko Kakihana, Mitsuru Higa, Takahiro Matsumura, Mitsuhiro Sakoda, and Kazuki Iida

Long-term evaluation of an air-cathode microbial fuel cell with an anion exchange membrane in a 226L wastewater treatment reactor

Environmental Research, 2021, 112416.

昨年3月に修士課程を修了された杉岡さんがメインで取り組んでくれたMFCスケールアップ論文が発表されました(まだpreproofですが公開されてます.).杉岡さんが就職されてからも、データを足して書き直して諸々頑張りましたが、力至らず. 3つの雑誌にチャレンジしてリジェクトされましたが, 最終的にEnviron Resでは軽微な修正で受理されました. MFC論文では、あり得ない実験設定であっても、とにかくチャンピオンパフォーマンスを示さないと載らないのかもしれませんね. 山の高さを再認識しました. とはいえ、下水の微生物燃料電池研究で堅持してきた現実路線をぶらすことなく、卒業・修了された皆さんの成果を発展できるよう取り組んでいきます.

NIT01株の分離&酵素同定論文が発表された裏話

Dehalococcoides mccartyi NIT01, a novel isolate, dechlorinates high concentrations of chloroethenes by expressing at least six different reductive dehalogenases

Masaki Asai, NaokoYoshida, Toshiya Kusakabe, Mohamed Ismaeil, Takumi Nishiuchi, Arata Katayama.

Environmental Research, 2021, 112150

https://doi.org/10.1016/j.envres.2021.112150

最大4mMの塩素化エチレンを無毒なエチレンまで脱ハロゲン化する微生物を分離し、この微生物が塩素化エチレンを脱塩素化している間、少なくとも6種類の脱塩素化酵素を発現していることを発表した論文です.難培養性といわれるDehalococcoides属細菌ですが、もう世界的には10株以上分離されてしまって、なかなか新規性を担保できず、論文を出せずにおりました.補佐員の鈴木さんのサポートで日下部君が濃度耐性や塩濃度もろもろ基礎的なデータをとってくれ、補佐員の秋田さんのサポートで現M1の浅井くんとが1.5年かけて酵素を抽出し同定するところを行いました. 緊張で手を震わせながら抽出タンパクを精製していたころから考えると随分逞しくなりました. これによって、これまで着目されていなかった脱塩素化酵素が塩素化エチレンの脱塩素化中に発現していることを新たな知見として示せた論文を発表することができました. 孟さんにもゲノム登録のところでサポートしてもらい、まさにチームでつかみとった論文発表でした.みなさんに感謝しています.

この微生物は民間企業による地下水浄化事業にも適用されており環境中に補填されていくことから、その基礎代謝を地道に明らかにしていくことは重要です. 土木の発表会では、「それ調べて何の役に立つの?」というようなコメントに悔しい思いもしましたが、研究へのモチベーションを失うことなく頑張り続けてくれました. 論文執筆の段階では、はじめは「考察って何かいたらいいか分からないです」というところから始めて、なんとか書いてもけちょんけちょんに言われ全く残らない・・・といったサイクルを何回か繰り返すうち、最後は自分の考えを言葉にできた文章もいくつかでてきました.自分でも成長を実感し、少しは自信がついたのではないかと思います. 春休みを論文執筆に費やしブラック?に染め上げた犠牲の果て得たものが、少しの自信ってのは高すぎる代償かな? 残る1年と少し、浅井君の更なるステージアップを期待しています.

電流生産微生物の新種提唱論文がMicroorganismsに発表された裏話

Isolation and Polyphasic Characterization of Desulfuromonas versatilis sp. Nov., an Electrogenic Bacteria Capable of Versatile Metabolism Isolated from a Graphene Oxide-Reducing Enrichment Culture 

Microorganisms 20219(9), 1953; https://doi.org/10.3390/microorganisms9091953

Li Xie,Naoko Yoshida,Shun’ichi Ishii and Lingyu Meng

豊橋の海岸沿いの砂浜から分離した電流生産微生物を新種として提唱した論文です.Desulfuromonas属の新種として、この属の既報の微生物には見られなかった硝酸還元能があったことから、‘Desulfuromonas versatilis’ と提唱しました(とはいえ、オフィシャルに認められるには、ここから2国の培養寄託機関に寄託しIJSEMに公式な学名として認めてもらうよう申請する必要があります).ゲノム配列を読んで驚いたことは、機能遺伝子の新規なこと!GeobacterやShewanella属はよく研究されていますが、Desulfuromonas属の電流生産にかかわるタンパクはほとんど手が付けられていないのに驚きました.環境中でたくさん電流生産微生物として検出されているのに、意外・・・基礎研究と応用研究の両立は難しいですが、GeobacterやShewanella属の先人の偉業を道しるべに、コツコツ基礎研究も続けたいものです.

この論文の執筆中に、第一著者の謝さん・孟さんご夫妻に第一子が誕生しました. 謝さんとゲノムに基づいて代謝経路について固めていく作業は楽しかったです.研究職に限ったことではないですが、働き盛りがライフイベント乗り越えながらキャリアアップするのは大変ですが、将来のアカデミアを支える貴重な時期をみんなで応援したいものです.